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2021/01/31 11:10 / 大和編

大和 2021年歌会始め とある鉱夫の一日。
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大寒が過ぎ、少しばかり春の訪れがやってきたが、山々に囲まれたこの村の気温はまだ低い。
採掘をしている最中は身体は暑くなるが、それを止めれば流れ出た汗はその体温を急速に奪っていくが、彼の懐は温かい。

新年早々、初めての掘りにでかけた所、なんと一発目で宝石を掘り出すことができたのだ。

身体をブルッと震わせると先程掘り出したばかりのサファイヤを1粒預け代わりにローブを取り出すと、その身に纏った。

彼は忘れられた島の南部にある辺鄙な村 Delucia に住む名も無き鉱夫。
つい先日、宝石を掘り出したことを受け、村の鍛冶屋にグランドマスターの認定を受けたばかりだ。

(さて、さっきの宝石は売るか、それとも今年のお守りにとっとくか?)

銀行の用事を終え、そんなことを考えながら厩舎に荷場を預けに西に向かうと銀行の前に居たタウンクライヤーが、大きな声でなにかを伝えている。

「今月末、ブラックソン王城にて、歌会が開かれる!希望する市民は是非参加を!」

「陛下から出されたテーマは「光」である!、陛下もご拝聴する為、市民は新年に相応しき詩を献上せよ!」

(へぇ、王都ではそんな催しがあるんだ。なんとも雅なことだわな)

(んん?)タウンクライヤーの言葉に少し気になるところがあったので道を引き返しタウンクライヤーに声をかけた。

「ちょっくらお聞きしますがね?王城ってーのは、王都にある堀に囲まれたお城ですかい?」

タウンクライヤーは、こいつは何を言っているのだ?という内心思うが、それを表情には出さず村人に答える。

「うむ。王都ブリテインにあるブラックソン陛下の居城・ブラックソン城だ。見学に行くのか?」

タウンクライヤーの思ってもいなかった「見学」という提案に心が動く。
それに陛下もご拝聴するということなら、運が良ければ、その御姿を拝見することもできるかもしれない。

思えばずっと Delucia に住み、王都へ旅行に行ったのも数年前の出来事だ。
幸いにも宝石を掘り出せるようになって懐も温かい。
良い機会なので、ちょっくら旅行がてら、王都へ行ってみて、ブラックソン城を見に行くのも悪くない。

ありがとさん!とタウンクライヤーに礼を言うと、彼は銀行に向かうと旅の準備を始めることにした。

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歌会当日。

彼は準備した荷物をまとめると、てくてくと村の端へ向かっていく。
そこには真っ暗な洞窟が口を開いている。

ボッ。

手に持ったランタンに火を入れると、彼はその中に足を踏み入れた。
洞窟の中は狭く道も狭い。石筍にぶつからぬよう慎重に奥へ奥へと歩きだす。
途中に坂もあり、ただの村人では少々危ない道のりであるが、場所を確保できなかった時は洞窟の中で採掘を行うこともある。

暫く歩いていくと、徐々に明るくなってきて出口が近いことを示す光が見えてくる。

ボッ。

洞窟から出た所で、ランタンの火を消す。なんでもオイルがいらない魔法のランタンもあるそうだが、そんな貴重品、ただの鉱夫には手の届かぬ高級品だ。

ここから暫くはランタンの必要も無いので手に持たずバックパックに仕舞い込む。
この先ランタンを持ったままでは危なくもあるのだ。

洞窟から出た先は、騎士の街 Trinsic から少し離れた森の中だ。
深く生い茂っており、街道なども整備はされていない。
うっかり根に足を取られ大事なランタンを割るわけにはいかない。

(確か、こっちの方角であってるよなぁ?)

ランタンの代わりに村の細工屋に作ってもらった六分儀を見ながら、北の方向へ歩き出した。
深い森と言っても、アンデッドなどが跋扈する危険な森ではない。
野生の動物も多くいるが、こちらからちょっかいを出せねば襲われることも無いだろう。

暫く森の中を歩いていると、徐々に密度が薄くなり、空けたところに出る。
まだかなり遠いが、トリンシックの防壁も見えてきたので、この辺りで間違いないだろう。

道々に落ちている秘薬を拾いつつ、地面からうっすらと青い光を放っている場所にたどり着いた。
盆地になっているそこには、青い光を放つムーンゲートが鎮座していた。

躊躇なく、その中に入ると、行き先を選ぶ石版が浮かんでいた。

(そういえば、昔は月の満ち欠けで行き先が変わったって話を、ひぃじぃさんから聞いたなぁ)

石版にはトランメルやフェルッカ、イルシェナーなどがルーン文字で書かれており、その下には公用語で読める文字も刻まれている。
以前、興味本位でフェルッカを選んでみたが、その先は木々が枯れ果て、おどろおどろしい殺気を感じ、すぐさま逃げ戻った記憶がある。

間違いなくトランメルを選び、王都直轄地のブリテインを選択する。
キューンともファーンとも表現しにくい奇妙な音と共にその身はブリテイン郊外に転送された。

まず北東に向かい街道に出てから道なりに行けば王都ブリテインに辿り着く。
徒歩では、そこそこの距離があるが、鉱山で鍛えたその足には苦にならない。

橋を渡り、奇妙な像を横目に、王都に入る。
Delucia なんて村と違い、非常に多くの建物が立ち並び、その道は石畳で舗装され、王都に相応しいだけの、様相を呈していた。

先程までの街道の土とは違い石畳の硬い感触を感じつつ。王都第一銀行に向かう。
さすがに旅装のまま王城にお伺いするのは失礼である。

銀行にバックパックの中の荷物を預け、その代わりにその昔伝説の裁縫人と呼ばれた Sakai から持ったフードに着替えると、近くのタウンクライヤーに声をかける。

「あの、すいません。本日歌会があると聞いて、やってきたんで、・・・いや参りましたがどう行けば良いでしょうか?」

村にいるタウンクライヤーと同じであるが、王都のいるだけで、つい丁寧な言葉づかいになってしまう。

「あぁ、歌会への見学者か。銀行の横を北上していけば、王城が見えてくるからそれを目印に向かえば良い。徒歩のようなので問題は無いだろうが、城内は下馬する必要がある。」

「ありがとうございました」

ペコりと頭をさげ礼を言うと、銀行の横の道に出ると、確かに遠くに城壁らしき物が目に入った。

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そこには黒を基調とした-大理石だろうか?艶のある石を丁寧に積まれ建てられた見事な城があった。
城門らしき壁の中央には金でできたプレートが掛けられており「ブラックソン城」と書かれている。

他にも歌会への参加者だろうか?王城の中に入る人達と一緒に城内を進んでいく。
大きな広間に出ると、既に多くの人達が椅子に座って、開催を待っているようだ。

空いている隅っこの席を見つけると、そこへ座ると、周りを見渡した。

そこには綺羅びやかな服装や魔法の装備品で身を包んだ人々が座っており、気軽な旅行気分でやってきたがこれはひょっとして非常に場違いな場所に来てしまったのではないだろうか?

下手な恥を晒すよりも帰ったほうが良いのではないか・・・と思ったが、時既に遅し、城内が静まりかえり、さわさわとした小声だけになる。
そして、通路の中央に翡翠色のムーンゲートが現れ、その中から一人の人物が歩み出た。

小豆色の直垂に、覚めるような赤いマントを羽織り、その下には見事な装飾と紋章が描かれたチェインメイルだろうか?を装備しており、その頭上には偉大な王を示す金の王冠を被った人。

ブラックソン王その人であった。

皆に軽い挨拶をかわし無礼講であることを伝えると、陛下自ら今回の歌会の説明を行ってくださり、まずはブリテイン市民から発表をされてはどうか?とご提案された。

ブリタニア各都市の首長と市民からの発表が行われていく。
雅な詩も、自らの住む街を見事に表現した詩が紡がれていく。

(市民でもねぇ、失われた大陸と呼ばれ田舎の村人なんぞ、出てくるもんじゃねぇ・・・でも、しかし・・・おらが村にもタウンクライヤーやガードを置いてくださる。陛下に少しでも・・・)

歌会が進み、陛下が、でそろったかね?と皆に問いかける。

「はい」

思わず声を上げてしまう。
一斉に視線が集まり顔が赤面する。しまった!やっぱり場違いだったか!
恥ずかしさの余り、席に戻ろうとしたところ、陛下はお優しい声で「前に出なさい。」と声をかけてくれる。

「よろしく頼む」

陛下にそう言われ勇気を一つ貰う。まわりからは拍手が起こり、更にもう一つ貰う。

できる限り震える声を抑え

「私はデルシアという辺鄙な村に住むしがない鉱夫でございますが、陛下にお会いできると聞き、遠路はるばるやって参りました」

「おお」市民以外が来るとは思われていなかったのだろうか。そのお声は「なぜ?」とも「どこだ?」とも聞こえてきた。
だが次のお言葉は「ようこそいらっしゃった。歓迎するよ」だった。

予想だもしなかったお言葉に少し目が潤みそうだったが、この期待を裏切る訳にはいかない。

「学がねぇ鉱夫の歌でございますが、失礼をば」

広間がシンと静かになる。頑張れ俺!

「山々で、つるはしを持ち、掘りすれば、きらりと光る、サファイヤの石」

美しさもなにも無い余りにも素朴な歌。

「恐縮でございます」

広間に拍手があがり、ひとまずは受け入れれたことに安堵する。
そそくさと席に戻り、後は閉会まで静かにしてよう。これ以上目立つようなことはしてはいけない。
そう心に強く思うと、気配を消すように縮こまる。

「思いがけずサファイヤが出土した感動が伝わってくるね。」

誰あろう陛下がご感想をお伝えになられる。更に続けて

「こう言ってはなんだが、形式張った陳情よりも、その生活ぶりもよくわかった、なんとも印象に残る歌であった」

嗚呼!膝に置いた手が震える。
このブリタニアを統べる陛下が、こんな村人の言葉を印象に残して頂けるとは!
余りにも身に余る光栄に涙が出てきそうだった。

「返歌よろしいでしょうか?」

席の座った人から声が上がる。
ローブの袖で目尻を吹き、顔を上げると、先程歌われていた方が、前に進み出て、んっんっと喉を整えると

「サファイヤの、石を透かして見上げれば、内にも外にも、光弾ける」

以上です。
一瞬の間が過ぎ、まわりから感嘆の声が上がり拍手が沸き起こる。
こんな歌に返歌まで・・・もう涙腺が崩壊しそうだった。
だが、彼の心の中には最初あった不安は既に無く、受け入れてくれた市民の方々。更にはお声掛けしてくださった陛下のお言葉により自信に満ちあふれていた。

その後、大トリを務めるブリテイン首長の歌を閉めに、歌会は盛況のうちに閉会となった。

余り現実味の無い出来事にほわほわとした気分で城を後にする。

町中に入り、だんだんと気持ちが戻ってくる。

村に帰ったら、まずは鉱夫仲間に陛下が Delucia のことまで知っていたことを説明せねば!
そしてお声掛けまでして頂いたことと共に、その御威光を説明せねば!
逸る心に自然と足も早くなる。

銀行を通り過ぎ、街道に出る。
このまま行けば、夕方には村に帰れるだろう。

しかし、その足がピタリと止まり、くるっと方向を変えた。
忘れ物があったからだ。

「忘れてた、ランタン取りに 銀行へ、帰路を急げど、明かりは必要」

[更新日付:2021/01/31 16:10:15]
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